葬儀や法要の時に用意するお寺へのお布施。通常であれば領収書は発行されません。その理由をご存知ですか?
一方で、葬儀費用は相続税の控除の対象になり、お寺へのお布施も例外ではありません。
「領収書があれば相続税から控除できるのに、発行されないの?」
このように疑問に思う方もたくさんおられることでしょう。
だからこそ、お布施の領収書について気にする人も多くいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、どうして葬儀の御布施に対して領収書を発行する慣習がないのか、発行してもらうにはどうすればいいのかについて、分かりやすく解説いたします。
お布施とは
お布施とは、葬儀や法事といった宗教行為をしていただいたお寺への「寄附」のことです。
寄附は報酬とは異なります。報酬であれば、その収入額に対して所得税がかかりますが、寄附の場合は非課税となります。これがお寺の領収書が発行されない大きな理由です。
まずは御布施がどういうものなのかを簡単に押さえておきましょう。
仏教の教えの中に悟りの境地にたどりつくための6つの修行法である「六波羅蜜(ろくはらみつ)」というものがあり、そのうちのひとつが「布施」でした。
布施は3つに分けられます。財施(金品を施すこと)、法施(教えを説くこと)、無畏施(苦しんでいる人に寄り添うこと)です。現代風に言い換えれば、お金を、知識を、そして心をシェアする(=施す)ことが布施という修行とも表現できるでしょう。
施しとはとどのつまり、自分が持ち合わせているもののうちのどれだけのことを、他者に対して振り向けることできるかという、気持ちの問題です。だからこそ、本質的にお布施は金額設定ができないものとして考えられています。
「お布施をいくら包めばいいですか?」と訊いて、お坊さんが「お気持ちで」と応えるのもまさにそのためなのです。
ただ最近では、「お布施をいくら包むべきかわからない」という声も多数聞かれるようになりました。こうした声に応える形で、住職と檀家が話し合ってお布施の金額を取り決めしているケース、お布施の金額をお寺から伝えるケースも見られます。
領収書は発行してもらえる
ここまでのことを踏まえた上で、御布施の領収書について話を進めていきます。結論から言うと、喪主が希望すると、お寺側はお布施の領収書を発行してくれます。
ただし、御布施袋の中身をその場で確認して、領収書を切る、というような光景は、葬儀の現場ではまず見られません。
領収書が必要な場合は、事前に、あるいは葬儀が終わったあとにお寺に相談しましょう。
領収書の慣例がない理由
慣例的にお寺が御布施の領収書を発行しないのには、主に2つの理由があります。
●発行の義務がないから
御布施は報酬ではなく「寄附」の扱いとなり、領収書を発行する義務がありません。
領収書は課税文書のひとつで、収入印紙を貼って領収書を発行することで、御布施に対して税金を納めたことになります。
しかし、葬儀の読経のような宗教行為はそもそも非課税であるため、お寺側から領収書を発行する必要がないのです。
●喪主側が請求しないから
義務がない以上、お寺側から自発的に領収書を発行することはありません。その上で、喪主から請求されることがなければなおさらです。
「お寺に領収書をお願いするのは失礼かな」
「そもそもお寺は領収書を発行しない」
こうした思い込みから、領収書を請求する喪主がほとんどいないのだと思われます。
御布施も含めた葬儀費用は遺産額から控除される
葬儀にかかった費用は、遺産額から控除されます。これは御布施も例外ではありません。少しでも相続税を安く抑えるためにも、葬儀にかかった費用の領収書は保管しておきましょう。
国税局のホームページには控除の対象となる品目について、次のように記載されています。
(1) 葬式や葬送に際し、又はこれらの前において、火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用(仮葬式と本葬式を行ったときにはその両方にかかった費用が認められます。)
(2) 遺体や遺骨の回送にかかった費用
(3) 葬式の前後に生じた費用で通常葬式にかかせない費用(例えば、お通夜などにかかった費用がこれにあたります。)
(4) 葬式に当たりお寺などに対して読経料などのお礼をした費用
(5) 死体の捜索又は死体や遺骨の運搬にかかった費用
この中で、お寺へのお布施は(4)に該当します。
葬儀費用とは認められないもの
気をつけなければならないのは、お布施と一緒に渡す「お車代」や「お膳料」です。これは控除の対象にはなりません。なぜなら、お車代は住職の送迎の代わりで、お膳料は食事の代わりに手渡すもので、直接宗教行為には当たらないからです。宗教法人への収入ではなく、住職個人への収入とみなされるのです。
また、次にあげる葬儀後の「供養」にまつわるものも、控除の対象にはならないので注意しましょう。
●香典返しの費用
●墓地の永代使用料や墓石の建立費用
●仏壇や位牌などの購入費用
●初七日や四十九日などの法事にかかった費用
領収書がもらえない場合は、お布施の内容をメモ書きしておく
「相続税を少しでも安くしたい。でも、領収書がもらえなかったためにお布施を支払った証明ができない」とお悩みの方も大丈夫です。
どうしても御布施の領収書が用意できない場合は、喪主側のメモ書きで構わないと言われています。
ただし、メモの中には、お寺の名称、お布施の額、葬儀の日時、お布施を渡した日時などを明記しておきましょう。こうした最低限の情報が記載されていることで、事後調査が可能なため、税務署は受理してくれます。
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