故人の銀行口座は、銀行が死亡の事実を知ったタイミングで凍結され、入出金ができなくなります。
家族が窓口やATMに出向いてお金を引き出すこともできませんし、支払い口座にしていた場合、公共料金などの自動引き落としもできなくなってしまいます。
金融機関はどうしてこのような措置を取るのでしょうか?
そして、凍結された口座はどのように解除すればいいのでしょうか?
銀行は遺産を守るために口座を凍結する
その人の資産は、死亡と同時に遺産になります。名義人の口座の中にあるお金は、「相続財産」なのです。遺産分割の対象であり、相続税の課税対象であります。
つまり、遺産は法定相続人に分割相続されなければなりません。
法定相続人の内、特定の人が優先的に口座から出金してそのお金を使うのは原則として禁止されています。ですから銀行は、死亡の事実を確認した段階でその人の遺産を守るために、口座を一時凍結するのです。
口座はいつ凍結されるのか?
さて、これまで、「死亡の事実を確認した段階で口座が凍結される」と話してきました。誤解している人が多いのですが、死亡届を出したからといって、口座は凍結されません。役所から金融機関に直接連絡が行くようなことはないのです。
銀行はどうやって死亡を知るのか?
では、銀行はどうやって預金者の死亡を知るのでしょうか?そのほとんどは家族からの申し出だと言われています。またそのほかにも、外回りをしている営業マンがなんらかの形で情報を得る、新聞のお悔やみ欄を見て口座を凍結することもあるようです。銀行側が名義人の死亡を知るのは、主に次の4つだと言われています。
●相続人(遺族)等から金融機関への連絡
●金融機関に対する残高証明書の取得申請
●新聞などのお悔やみ欄
●葬儀を知らせる看板
●地域住民や関係者からの情報
死亡前後の預金の引き出しには注意
「銀行が死亡の事実を知らないうちは口座は凍結されない。ではその間にお金をおろせばいいではないか」こう考える人も少なくありません。
しかし、預金者が亡くなる前後の引き出しには充分注意しましょう。死亡前後の引き出しには次の2つの問題点があるからです。
●相続人同士のトラブル
亡くなった人の財産は遺産となり、は法定相続分に沿って分割相続されなければなりません。誰かひとりが勝手にお金を引き出すことでトラブルのおそれが生じます。
なお、葬儀費用は相続税の控除の対象になっています。葬儀費用のために預金を引き出した場合は必ず葬儀社などからの領収書を大切に保管しておきます。相続税の手続きの際のトラブル回避に役立ちます。
●相続放棄できなくなる
故人の預金を引き出すと、その時点で相続を単純承認したことになり、相続放棄ができなくなってしまいます。葬儀費用だけをおろす場合はともかく、ほかの用途で亡くなった人の預金をおろす場合は要注意です。
万が一財産調査をして、プラスの財産(資産)よりもマイナスの財産(負債)が大きいことが判明しても、既に単純承認をしてしまった場合、相続放棄はできません。つまり借金を相続せざるを得なくなります。
公共料金などの引き落としができない すみやかに名義変更を
銀行口座が凍結されてしまうと、あらゆる支払いの自動引き落としもできなくなります。
電気、ガス、水道など、それぞれの専用窓口に問い合わせをして、すみやかに名義変更の手続きを行いましょう。
電気の名義変更の方法
電気の名義変更はそれぞれの地域の電力会社に連絡します。関東地方なら東京電力、関西地方なら関西電力といった具合です。ただ最近では、電力自由化以降、さまざまな企業が電力の販売をしているため、契約先をきちんと確認しておきましょう。電力会社へは領収済通知書などをもとに電話で連絡します。もしも領収済通知書などの書類が見当たらない場合は直接電力会社に電話し、契約者名、住所、そして事情などを伝えて対応してもらいましょう。
ガスの名義変更の方法
ガスの名義変更も電気と同じで各ガス会社に連絡します。
水道の名義変更の方法
水道の管理をしているのは各自治体の水道局ですが、手続きの内容はそう変わりません。水道局の専用窓口に連絡して、名義変更の手続きを進めましょう。
口座凍結の解除の方法
凍結された口座を解除するにはどうすればいいのでしょうか。
一般的には次の書類を用意して、銀行に提出しなければならないと言われています。
- 亡くなった人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続した戸籍謄本)
- すべての相続人の戸籍抄本あるいは戸籍謄本(故人との関係が分かるもの)
- すべての相続人の印鑑登録証明書
- 代表者の実印
- 遺産分割協議書(すべての相続人の署名捺印が必要)
- 金融機関が指定する書類
- 預金通帳やキャッシュカード
これらを見ていると、相続人全員の同意が求められていることが分かります。ひとりでも同意が得られない、あるいは連絡がつかないという事態になってしまうだけで、銀行側は解除に応じてはくれません。これも相続財産の保全のためなのです。
詳しくはそれぞれの金融機関に問い合わせをしてみてください。ホームページ上でも必要書類が掲載されています。
遺言証がある場合
もしも生前に公正証書遺言を作っておけば、相続人全員の印鑑証明や遺産分割協議書などなしにお金を下ろすことができます。
公正証書遺言とは、公証人が作成する遺言書です。
手数料こそかかりますが、公証人が作成し、立会人も2人以上いるため、無効になりにくいという長所があります。
そして何より、家庭裁判所の検認手続きが不要ですので、口座の凍結解除手続きも速やかに行われるでしょう。
ただし、自筆証書遺言の場合は、裁判所による検認の手続きが必要となります。
一方遺言書には、自筆遺言証書といって、自分自身で作成する遺言書もあります。いつでも気軽に自分で書けるのですが、もしも内容に不備が合った場合には無効となってしまいます。
また、自筆遺言証書の場合は裁判所による検認手続き(内容に不備や不正がないか精査)が必要で、一ヶ月近くを要しますので、凍結解除にも時間がかかってしまいます。口座の預貯金など、相続に関わる事柄をスムーズに行うには、公正証書遺言を事前に作成しておくことをおすすめします。
法改正により、預貯金の一部を引き出すことが可能に
2019年7月より施行された法改正、一定の金額の範囲内であれば、相続人単独が故人の預貯金を引き出せるようになりました。引き出せる金額は、
【預貯金残高×3分の1×その相続人の法定相続分】
…です。
法定相続分とは、法律上で決められた財産の取り分のことです。
たとえば、故人に配偶者と子がいる場合、配偶者の法定相続分は2分の1です。銀行に450万円の預貯金が残っていて、妻が窓口になって預貯金を引き出そうとした場合、
【450万円×3分の1×2分の1=75万円】
…となり、75万円までは引き出し可能となります。
また、どんなに預貯金残高が多くても、引き出せる金額の上限は150万円と決まっています。
これまで葬儀などの急な出費でも故人の預貯金に手をつけられなかったのが、いまではある程度の金額であれば頼りになるということです。詳しくはそれぞれの金融機関に相談しましょう。
死亡後の預金をそのままにしておいたほうがいいケース
預金口座の中にはお金が入っているため、少しでも引き出しができればと考えがちです。しかし、次の場合は、手をつけずにそのままにしておいた方がよいでしょう。
●相続放棄する場合
相続は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(負債や借金)もその対象となります。マイナスの財産が上回っている場合は相続放棄をするのも方法の1つですが、預金の引き出しをしてしまうと相続を承認したとみなされるおそれがあります。相続放棄を考えている場合は、亡くなった人の預金に関する手続きはしないほうが良いでしょう。
●残高が少ない場合
口座凍結の解除には大きな手間がかかります。口座残高が少ない場合、口座を放置しておくのも選択肢のひとつです。最後の取引から10年以上経過した口座は休眠口座となり、やがて民間公益活動に活用されることになっています。
まとまったお金を用意しておくためのいくつかの方法
名義人がなくなると口座が凍結されてしまう。また、葬儀には高額な費用がかかる。これらのことがわかっているのであれば、事前に対策を打つこともできます。
●まずは葬儀費用がいくらかかるか知っておく
まずは自分たちが希望する葬儀費用がどれくらいかかるのかを知っておきましょう。元気なうちからいくつかの葬儀社をまわって見積もりを取ります。葬儀費用の概算がわかることで適切な予算計画を立てることができます。また、業者の比較検討もできるため、一石二鳥です。
●年間110万円以下の生前贈与をしておく
死亡した財産を渡すことを「相続」と呼びますが、生きているうちに行われるとこれは「贈与」になります。生前贈与の非課税枠は年間110万円です。つまり、110万円以内の贈与を年を変えて複数に分けて行っておくのです。葬儀費用の平均相場は100万円~200万円ですから、よほど大きい葬儀でなければ1度か2度の生前贈与で葬儀費用は充当できるでしょう。
なお、生前相続は相続税の節税対策にも役立ちます。
●葬儀保険に加入する
葬儀費用のための保険「葬儀保険」をごぞんじですか?「少額短期保険」に分類され、50万円コースから300万コースと、葬儀費用の支えになる保険です。月々の掛け金も1000円程度と大変安く、本人が元気なうちに加入しておくことで、家族の負担が軽減されます。
AZUMA葬祭は葬祭のプロフェッショナルとしてみなさまのご相談やご質問に24時間・365日対応しております。家族葬をお考えの方、お悩みの方は、こちらのお申込みフォームから、お気軽にお問い合わせください。