お葬式の時に、お悔やみの気持ちを形に表したのがお香典です。このお香典、政治家が遺族に渡すことは法律で固く禁じられています。なぜなのでしょうか。詳しく解説いたします。
公職選挙法の「寄附行為の禁止」
現職の政治家や、立候補予定者は、あらゆる寄附行為が禁止されています。金銭や物品を提供することで、投票における「見返り」を求めていると見なされ、お香典は、現金の寄附に該当するのです。
また、政治家本人だけでなく、秘書や、その政治家が所属する会社や団体、さらには後援会などによる寄附も禁止されています。
どうしてこれらの寄附行為は許されないのでしょうか。
それは、政治家が特定の個人や団体に対して香典を提供することによって、利害関係が発生する可能性があるためです。特に、政治家が企業や業界団体の関連する葬儀に参加し、香典を提供する場合、その行為がのちの政策決定や、選挙における得票数に影響を与える可能性があると見なされかねません。
クリーンな選挙、明るい選挙、お金のかからない選挙のために、「公職選挙法第199条の2」には、次のように記されています。
公職選挙法 第199条の2第1香(公職の候補者等の寄附の禁止)
公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域。以下この条において同じ。)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者等の親族に対してする場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会(参加者に対して饗応接待(通常用いられる程度の食事の提供を除く。)が行われるようなもの、当該選挙区外において行われるもの及び第百九十九条の五第四項各号の区分による当該選挙ごとに当該各号に定める期間内に行われるものを除く。以下この条において同じ。)に関し必要やむを得ない実費の補償(食事についての実費の補償を除く。以下この条において同じ。)としてする場合は、この限りでない。
お歳暮もお見舞いも禁止されている
総務省は、政治家による寄附を、贈らない、求めない、受け取らないの「三ない運動」を提唱しています。
お葬式の香典以外でも、葬儀の花輪や供花やお供え物、お歳暮やお中元、入院のお見舞い、入学祝や卒業祝、年賀状やバレンタインデーのチョコのお返し、ちょっとした差し入れなども、寄附行為に該当します。
公職選挙法違反の事例
2019年10月25日、当時経済産業大臣だった菅原一秀さんは、公職選挙法が禁じる寄付行為の疑惑で、大臣を辞任しました。
菅原さんは2006年から2007年に自身の選挙区内でカニや筋子、メロンなどを配った疑惑がもたれ、さらには2019年10月に、公設秘書が支援者の通夜に訪れて香典を手渡したとのことです。
なお菅原さんは、2021年6月1日に自民党を離党しています。
香典が認められるケース
中には、香典が認められるケースもあります。
ひとつは、政治家自身の親族(6親等以内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族)に対して送られる香典は寄附行為に該当しません。
また、政治家自身が通夜や葬儀に足を運んで差し出す香典も処罰の対象外とされています。ただし、香典以外の線香、供花、花環などのお供え物は認められません。さらに、秘書などが代理で参列して香典を渡すことも処罰の対象となります。
弔電で弔意を示す
このように、政治家による有権者への寄附行為は相当厳しく管理されています。亡き人への弔意を形としたものが香典、供花、供物であるはずなのに、それらを出すことができないとなると、政治家の人たちはどのように弔意を示せばよいのでしょうか。
そこで、政治家たちがどうしているかと言うと、弔電です。弔電とは、お悔やみの言葉を載せた電報のことで、これなら金品や物品の寄附には該当しません。
地域の有力者の葬儀では、よく地元政治家の方の弔電が読み上げられます。聴く人によっては「売名行為だ」という風に受け取るかもしれませんが、裏を返すと弔電を出す、葬儀場に弔問に出向くらいしか、政治家の方は弔意を示す場がないのです。
終わりに
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この記事を書いた人
株式会社AZUMA代表取締役
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