「自分らしい葬儀をあげてほしい」
「子どもたちに迷惑をかけたくない」
こうした想いから、自身の葬儀について遺言書に残しておくことができます。遺言とは、人が亡くなる前に遺される人に対して要望を伝えるための書類ですが、葬儀の有無や方法を指定できるのでしょうか。
葬儀の方法は「付言事項」 法的拘束力はない
結論から言いますと、遺言書に葬儀の方法についての希望を書いていたとしても、法的な拘束力はありません。
というのも、遺言の内容は「法定遺言事項」と「付言事項」の2つに分けられ、葬儀の方法の希望は後者にあたるからです。前者が法的効力があるのに対し、後者には法的効力がありません。「付言」というくらいですから、まさに「付け足した遺族へのメッセージ」のようなものと思えばいいでしょう。
法定遺言事項とは
法定遺言事項には、主に財産の相続方法などに関することが盛り込まれます。次のようなものが挙げられます。
・相続分の指定(その委託)
・特別受益者の相続分に関する指定
・遺産分割方法の指定(その委託)
・遺産分割の禁止
・共同相続人間の担保責任
・遺贈(包括・特定遺贈)
・遺贈の減殺方法の指定
・一般財団方法の設立
・信託の設定
・遺言執行者の指定(その委託)
・祭祀主宰者の指定
・推定相続人の廃除(取り消し)
・認知
・未成年後見人の指定・未成年後見監督人の指定
葬儀に関して唯一関連があるのが「祭祀主宰者」の指定です。葬儀の喪主を務めたり、その後の供養(仏壇やお墓やお寺との関わりなど)を主体的に行う人のことです。祭祀主宰者の指定は法的効力を発揮します。
実際の葬儀の現場で、遺言書はどれだけ効力を持つ?
遺言書に葬儀の希望を遺すことで、自分の思いを家族に伝えることができます。
しかし、自分の葬儀の希望と、家族の葬儀の希望が異なる時、遺言通りに葬儀が行われないこともしばしば。
たとえば、本人が「子どもたちに迷惑をかけたくない。火葬にして欲しい」と望んでいたとしても、実際に喪主を務める子が「大切な親の葬儀だ。きちんとしたお葬式を出してあげたい」という想いから葬儀を行う例は実に多く見られます。
また、葬儀後の埋葬についても、本人が「散骨として海に撒いてくれたらいい」という遺志を残していたとしても、遺された人たちの中には「手を合わす場所が欲しいから、小さくてもお墓を建てよう」と考える人も多くいます。
ご逝去後は何かとバタバタするため、葬儀を終えたあとに遺言書が見つかることもあります。これだと、遺言書に沿った葬儀、というわけにはいかないですよね。このように、遺言に葬儀の希望を遺したとしても、あまり効果が期待できないというのが実情でしょう。
大切なのは普段からのコミュニケーション
葬儀は、故人の意思が尊重されつつも、最後は残された家族の「想い」が反映されます。「想い」の部分が強いため、どんなに遺言書に残していたとしても、法的効力を持ちづらいという性格があるのです。
だからこそ、自分の希望の葬儀にしてもらうには、家族との普段からのコミュニケーションが大切です。
普段の生活の中で、あるいは久しぶりの帰省で親子が再会した時に、葬儀や供養のことを話題にしてみるだけでも、相手が何を考えているのかが分かるものです。たとえば親が次のように話したとします。
「私が死んだときには葬儀や質素でいいよ。お骨も海に撒いてくれたら、あなたたちの負担も軽くなるでしょ」
これに対する子の受け止め方は、決してひとつではありません。
「親がそう願っているのなら、なるべくそのようにしてあげよう」
「自分は納得しているけど、兄弟たちはどう反応するだろうか」
「親はそう言うけど、こちらはきちんと葬儀をして、お墓に埋葬してあげたい」
「自分たちはいいけど、子や孫の世代になった時に、おじいちゃんおばあちゃんに手を合わせる場所がないのは問題だ」
…などなど、その受け止め方はさまざまです。ここで大事なのは、こうしたお互いの想いをしっかりと口に出して相手に伝えておくことです。
形として残しておくなら、エンディングノートなども有効です。
しかし、まずはお互いがお互いがどのように考えているのかを対面で話すことをおすすめします。馴れない話題ですから、はじめはさりげない世間話に差し込む程度でも構いません。同じ空間で話をすることで、相手の考えだけでなくその背後に潜む感情的な部分も汲み取ることができるからです。お葬式は、送る方、送られる方の双方がいてはじめて成り立つものです。自身の意思を、遺言書やエンディングノートをという形に託す前に、まずは直接伝える努力をしてみましょう。
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