間違って使っていませんか? 柩と棺の違い

「棺」と「柩」。これらの文字は訓読みではどちらとも「ひつぎ」と読みますが、音読みにした時に、「棺」は「かん」、「柩」は「きゅう」と読みます。

どちらも亡くなった方の遺骸を入れるための箱という意味になのに、どうして読み方が異なるのでしょうか?

この2つの文字にはどのような意味の違いがあるのかを考えてみました。

 

「棺」「柩」の文字の意味

まず、それぞれの文字が持つ意味を知っておきましょう。

それぞれ木へんが用いられていることから、「棺」も「柩」も、それぞれが木で作られていることはすぐに理解できるのではないかと思います。

 

  • 「棺」の文字の語源

「棺」は文字は、左に「木」、そしてその右側に「官」の文字があてがわれています。

「木」は棺が木で作られているからというのはすぐに想像がつきます。

一方、右側の「官」ですが、うかんむりは、屋根や家屋を表しています。

そしてその下にある記号は「肉」を象形化したものです。

このことから、「肉を囲う屋根・家屋=死体を入れる箱」という意味に成り、「棺」という文字ができ上がったと言われています。

 

  • 「柩」の文字の語源

「柩」の文字の右側は、何を表しているのでしょうか?

箱の中に「久」という文字があてがわれています。

「人」が死んだ状態の漢字に「尸(しかばね)」という字があります。

これは「人」を少しうしろに倒した状態の象形文字らしく、「屍」の語源でもあります。

うしろに少し倒れそうな人を背後から棒を用いて支えたのが「久」という文字。

死んでしまったのに倒れないようにずっと支えている、つまり「久」の文字には亡くなった人そのもの、そしてその人が「永久の存在」であることへの願望が表されています。

木へんの箱の中の「久」。

つまり「柩」の字は、「棺」との比較で言うならば、亡き人が納められた柩という意味になるのです。

 

「棺」は遺体が入っていない状態で「柩」は入っている状態

以上のことを踏まえると、次のように説明ができます。

「棺」の文字は「入れ物そのもの」で空の状態を指します。

「柩」の文字は、その棺桶の中に亡骸を納めた状態のことを指します。

 

「棺」と「柩」 実際の使われ方

では、実際の現場ではこれら2つの文字はどのように使われているのでしょうか?

一番分かりやすいのは、「納棺式」と「霊柩車」です。

 

  • 納棺式

納棺式というのは、ご遺体を棺の中に納める儀式のことです。

布団の上に眠っている故人様を、いまはまだ空の「棺」の中に納めるために、この文字が使われているのでしょう。

 

  • 霊柩車

霊柩車は、柩に入った遺体を火葬場まで運ぶための車のことです。

霊柩車が空の棺を乗せて火葬場まで走ることはありません。あくまでも柩の中に納められたご遺体を運ぶのです。

 

「出棺」と「発柩」

さて、棺桶に納められたご遺体を乗せて火葬場に向けて出発することを「出棺」と言います。

これは「棺」と「柩」の違いを語る上で一番の矛盾です。

ご遺体が入っている棺桶が火葬場に出発するのに、「出柩」とは言わずに「出棺」と呼ぶ、しかしこれが慣例で、正確な理由は分かりません。

ただ、神葬祭(神道の葬儀)には「発柩祭」という言葉があります。

これは、自宅から葬儀場に出発する時に執り行われる祭礼のことを指します。

 

「柩」=「輿」という説

上に挙げたものが、「棺」と「柩」の違いで最も有力なものなのですがこれ意外にも諸説あります。

たとえば、「柩」とは昔の葬儀で用いられた葬列の「輿」ではないかという説。

いまでこそ、葬儀というセレモニーは葬儀式場で行われ、出棺の際は霊柩車や自家用車などを用いて移動して、火葬場で火葬を執り行います。

しかし昔は、墓地まで葬列を組んで歩きました。

自宅で葬儀を執り行ったあとに、村の共同墓地まで葬列を組んで歩いて土葬にします。

遺体は棺の中に納められているのですが、その棺を運ぶための入れ物に「輿」というものがあり(「こし」と読みます。神社のお祭りのお神輿と同じ語源です)、これを担いで墓地まで歩いたのです。これが「柩」ではないかという説もあるのです。

 

「柩」という字に込められた中国人の死生観

「柩」という字の中には「久」という字が込められており、ここに中国人の死生観を見ることができます。

というのも、人間というのは、物質的には死ぬと時間をかけて消えてなくなるものです。永久ではなく、むしろ刹那的なものです。

しかし、中国人は、この遺体の中に永遠性を見いだそうとしました。

古代の中国では、祖先の頭蓋骨を自宅に祀り、定期的に魂下しを行い、常に死者とともに生活をするという死生観が根付いていました。

古代のインド思想(ヒンドゥー教や仏教)と古代の中国思想(儒教や道教)を比べると大変興味深いものがあります。

インドでは、死者は四十九日かけて別の何かに生まれ変わると信じているため、遺体や遺骨に固執しません。

ガンジス川に死者を流すのはあまりにも有名な風習です。

一方、中国人は祖先は永久に自分たちとともにいると考えました。

昔は自宅に死者の頭蓋骨を祀り、それが「神主(しんしゅ)」という祭具になり、現在の位牌となっています。

出家主義のインド社会に対して、先祖祭祀を大切にした中国人。

死者に永遠性を与え、それを担保するのは子孫たちによる先祖供養だったのです。

日本ではこれらがハイブリッドされて受け入れられているのですが、こと葬儀の現場では、中国の儒教の思想の方が、色濃く残っているように思われます。

 

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