意外と知らない宗教法人の税金や仕組みについて

「お寺は税金がかからなくていいな」「どうせ坊主丸儲けなんだろ」

お寺に対してこうした皮肉めいた言葉をよく耳にしますが、しかし宗教法人の税金や仕組みについてはあまりよく知られていません。実際のところ、儲かっているお寺はほんの一部。お寺だけの収入では生計を成り立たせるのが困難で、兼業している住職もたくさんいるほどです。

また、お寺に関するすべてが非課税というわけではないのですが、このあたりも勘違いされているのが実情です。

この記事では、意外と知られていない宗教法人の税金や実態について綴ってまいります。

宗教法人に税金が課せられない理由

「宗教法人には税金が課せられない」とよく言いますが、すべての税金が非課税というわけではありません。あくまで宗教法人が行うべき「本来の宗教活動」に対してだけ、非課税が適用されるのです。その理由は2つあります。

(理由1)宗教法人の活動は利益を生まない

法人税とは、法人の所得(利益)に対して課せられる税金のことです。

一般的な会社(営利社団法人)は、利益を生み出すことを目的とする組織です。そのため、会社が生み出した所得に対して課税されます。

一方、宗教法人は営利目的ではないために、前提として所得を生み出さないものと考えられています。ですから法人税や所得税に課税しようがないのです。

(理由2)宗教法人には公益性があるから

宗教法人は、税法上は「公益法人等」に分類されます。これは宗教法人だけではなく、学校法人や医療法人もここに含まれます。

公益性を持った法人ですから、その法人の活動の目的は、法人単独の利益の追求ではなく、社会全体にとってよいことをすること(公益)にあります。そのため、さまざまな税金に対して優遇措置がとられているのです。

非営利が目的の宗教法人ですが、実際には宗教法人の活動の中にも、宗教的側面と、収益事業としての側面もあり、後者についてはきちんと課税されています。

宗教法人の収益事業についてはのちほど詳しく解説いたします。

宗教法人と所得課税

所得に関する国税に、法人税と所得税があります。

法人税は、収益事業にあてはまる34の事業(詳しくは後述)を除いては非課税です。また収益事業についても普通法人よりも優遇されており、法人税率が低く設定されています。

所得税も、宗教活動に対しての御布施や寄付は非課税です。ただし、お坊さん個人は宗教法人から給料をもらう形で収入を得ており、これには所得税がかかります(のちほど詳しく解説)。

宗教法人と消費課税

宗教法人では、宗教活動に伴う収入は、通常、消費税の対象とはなりません。

一方、収益事業による収入は、原則として消費税の対象となります。ただ、消費税の中でも課税項目と非課税項目が分かれており、土地の譲渡収入や地代などは非課税、公益事業である博物館・美術館などへの入場料は課税されます

宗教法人と資産課税

宗教法人の資産、つまり境内地や境内建物に関する登録免許税、不動産取得税、固定資産税、都市計画税などは非課税です。

個人の会計と宗教法人の会計は明確に区分する

お葬式の時にお坊さんに渡すお布施。なかなか高額な出費ですが、これがまるまるお坊さんのふところに入ると思っている方、意外に多いのではないでしょうか。

実際にはそんなことはありません。お寺の活動による収入はすべて、個人ではなく宗教法人としての収入になるからです。

サラリーマンの人と比べると分かりやすいでしょう。

顧客から受け取った売上金はいったん会社の会計に納められ、そこから経費や設備投資、そして社員の給料として再分配されていきます。

お寺も同じで、宗教活動への御布施や、収益事業による収入はいったんお寺の会計に入り、そこからお坊さんに給料が支払われているのです。

お坊さんの個人所得には所得税が課税される

お坊さんはお寺から給料を支給されますが、この給料に対しては所得税が課税されます。また、兼業しているお坊さんもいますが、別の仕事で得た所得に対して所得税を課せられるのは言うまでもありません。

では、お寺はお坊さんにどれくらいの給料を支払うのか。これは宗教法人によって異なります。金額を固定しているところもあれば、葬儀や法事の件数や収益に対して出来高制にしているところもあるようです。

こうしたお寺の規則は住職が勝手に決められるものではありません。宗教法人には必ず「代表役員」や「責任役員」を置かなければならず、住職や役員(主に檀家の中から選ばれる)がそれぞれ話し合って、お寺のさまざまな方針を決めていくからです。宗教法人から支払われる住職への給料は、檀家の承認が必要、ということです。

宗教法人の収益事業 34事業

宗教法人の収益事業から生じた所得に対しては法人税が課税されます。国税庁は、宗教法人の収益事業として次の34種類を挙げています。国税庁が作成した冊子『宗教法人の税務』より抜粋します。

(1)  物品販売業

(2)  不動産販売業

(3)  金銭貸付業

(4)  物品貸付業

(5)  不動産貸付業

(6)  製造業

(7)  通信業、放送業

(8)  運送業、運送取扱業

(9)  倉庫業

(10) 請負業(事務処理の委託を受ける業を含みます。)

(11) 印刷業

(12) 出版業

(13) 写真業

(14) 席貸業

(15) 旅館業

(16) 料理店業その他の飲食店業

(17) 周旋業

(18) 代理業

(19) 仲立業

(20) 問屋業

(21) 鉱業

(22) 土石採取業

(23) 浴場業

(24) 理容業

(25) 美容業

(26) 興行業

(27) 遊技所業

(28) 遊覧所業

(29) 医療保健業

(30) 技芸教授業

(31) 駐車場業

(32) 信用保証業

(33) 無体財産権の提供業

(34) 労働者派遣業

この中で、一例として、下に挙げたものが該当します。

●お守りやおみくじなどの販売

これらは(1)の物品販売業に該当します。ただしこの物品販売の線引きもなかなかむずかしいところがあります。国税庁の指針では「売価と仕入原価との関係から見てその差額が通常の物品販売業における売買利潤ではなく、実質的な記者金と認められるような場合」は収益事業に該当しないとしています。要は、原価と売価の差額で利益を出しているかいないかが判断の基準ですが、明確に数値までは提示されていません。また、線香やろうそくなどの神前や仏前にささげるためのものの収入も収益事業には該当しません。

●不動産の貸付

(2)や(5)のように、宗教法人による、不動産の販売や貸付も収益事業と見なされます。ただし、墓地や霊園を運営している場合、お墓という場所そのものが宗教空間であるため、収益事業にはみなされません。

●宿泊施設の経営

寺院の中には宿坊を運営しているところもたくさんありますが、これは(15)の旅館業に該当し、収益事業となります。ただし、簡易的な宿泊施設で、1泊1,000円(食事付きの場合は2食付きで1,500円)以下であれば、収益事業に該当しません。

●教育事業

お寺によっては茶道、花道、書道などの教室を開いているところもあります。これらの取り組みは、(30)の技芸教授業として収益事業に該当します。

●駐車場の経営

お寺の境内地の一部を駐車場として貸し出して収益を得る場合、これは本来の宗教活動には当たらないため、(31)の駐車場業として収益事業に該当します。

●結婚式場の経営

神社であれば神前結婚式と式場の経営をしているところもあります。またお寺でも仏前結婚式をしているところもあります。神仏の前で行われる挙式そのものは宗教行為であるため、収益事業にはあたりません。ただし、披露宴のための宴会場の貸し出し、飲食物の提供、貸し衣裳、記念写真の撮影などは収益事業に該当します。

お寺の収入はどれくらいなのか?

ちなみに、お寺の年収ってどれくらいだと思いますか? 数千万? 数億? そんなことはありません。おそらくみなさんが思っている以上にお寺の年収は低いでしょう。

浄土宗僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳さんの『寺院消滅』(2015年:日経BP社)では、浄土宗内の寺院アンケート調査が掲載されています。「貴寺院の年収は、どの程度ですか?」の問いに、一番答えが多かったのが500~1000万(27%)、次が300万円~500万円(20%)、300万円以下を答えたお寺を合わせると、43%にも及びます。これが個人の年収ではなくお寺という一法人の年収なわけですから、いかに困窮している寺院が多いかが分かるかと思います。

いかがでしたか?このように宗教法人はすべての税金が優遇されているわけではありません。
税率は他と比べて優遇されている面はありますが、それは宗教法人の公益性を考えて配慮されているのです。

このようにして見ていけば、「坊主丸儲け」という印象も変わるかもしれませんね。

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